JR大塚駅北口にほど近い、開店時間から行列の絶えないおにぎり専門の名店がある。『おにぎり
ぼんご』だ。この繁盛店で切り盛りをする二代目店主の右近氏は意外にも「最初はやる気が全然
なかった。」という。お店に嫁いできた当初は何となくお店を手伝っていたそうだが、先代が体調
を崩したのを機に、いざ自分が握らないといけない立場に置かれた事が本格的にお店の経営に携
わるようになったきっかけだという。
まな板の前が握り手の舞台。「その舞台に立つまでに2年かかりました。そこからしばらくの間はお客様に顔向けできなかったんですよ。」という右近氏。早朝から仕込みに入って、深夜帰宅してから経理の仕事を繰り返す毎日。テレビを観る時間も、美容院に通う暇も無い状態を繰り返して、ようやく右近氏自身が納得のいくおにぎりを提供できるようになったのは、10年が経過してからの事だという。
最初は何もわからないところからのスタート。“温かくて、大きくて、具が多いのが『ぼんご』のおにぎり”という先代からの教えを忠実に守り、食材の事は要望を伝えるだけで、選定はプロの業者に任せてきたという。お客様から「持って帰ったらごはんが硬くて食べにくかった」と言われれば、時間が経っても硬くならないお米に変えてもらった。現在の豊富な種類の具材もお客様のリクエストにお応えするうちに次第に増えていった。つまり、お客様に求められているものを素直に追究していった結果が現在に至るという。「お客様は正直なんですよ。ダメなものはダメとハッキリと伝えてくださる。お客様に育ててもらったんです!」
もう一つ、先代からの教えが、“景気が悪い時に質を落とすとお客さんが離れて行ってしまう。逆に良いものを出さないとダメだ。”というものだった。「お客様がお客様を呼んで利益を運んでくれるから、お客様に投資をしないといけないんだ。」今となってハッと気付かせられた事だという。
お店で働く従業員とは初めはお互いが納得するまで議論を交わすという。「ぼんごは新しい人が入るたびにスタイルが変わるんです。」議論を交わす中で、良いと思った事はすぐに実行に移してきたという右近氏。中でも具材の追加トッピングのアイデアはお客様に好評で、大当たりした事例だという。従業員に対しては、少々のミスをしようが叱る事がない。代わりに、健康管理だけは常に言い続けているそうで、「疲れた顔で仕事をしてもお客様は美味しいと感じない。自分が完全でない時は、完全な仕事はできないよ。」という。すべてはお客様の“美味しかったよ!”の一言のために、右近氏自身も趣味に時間を取れるようになったそうで、「いい顔で仕事をするには自分が楽しくないとダメ。」と語る。
これからについて、「お客様に育ててもらった。お世話になった分、世の中にお返しをしたい。」との想いから、食育の発信をしないといけないと考えている。「自然界にあるもので美味しいものを楽しく食べる事が一番なんです。」ごはん(お米)を美味しく食べる方法を伝えていきたいという。
最後に、これから開業を考えている方々へ一言、「食は“愛”です。」
「愛情のこもった“おふくろの味”には敵わない。No.1になろうと思わないので、“おふくろの味”の次の2番手と思ってもらえるお店を目指します。」という。